計り知れない物語を背負った椅子1

                   2014/08/17

最近、家具の修復や復元を依頼されることが多々あます。歴史上の人々とその舞台に存在した家具や、家庭で日常使われている、生活の道具としての家具です。存在してきた歴史と物語の中に、デザインの趣向、製作技術、素材、使った人とそれを受け継ぐ人、その時代背景に思いを巡らせながら、関われることは、実に楽しいことです。

 

金沢家の大切にしている椅子1  虎斑(とらふ)のこと1

此の椅子は金沢家の奥さんの祖父松下兼冶氏が愛用していた椅子です。松下氏は鹿児島の出身で、肝付家(幕末の島津家を支えた小松帯刀の家系)の長男でしたが家督は継がず、医者を志し名古屋大学の医学部で学んだそうです。後に代々医者の家系である、静岡の松下家に養子に入った頃に、愛用していた椅子であると奥さんは、子供のころ父親から聞かされていたそうです。今回の修理により、此の椅子の生い立ちや歴史、素材の使い方、技術、造形的な思いが、時代背景とともに推測されます。

トラフチェア全体b

金沢さんが大切にしている椅子

チェア上部と説明

 

 

 

 

 

 

 

 

何時ごろ製作されたか推測の域を出ませんが、表皮材や充填物、表皮材を止める釘、コイルスプリングを受け止める、力布などから推測するに、明治中ごろ製作されたのではと推測されます。

此の椅子はナラ材で作られています。椅子の笠木は、繊維方向を横切るよう美しい斑が散りばめられて、シンメトリーに左右にそり上がっている笠木の意匠は明治初期から戦前までよく使われた意匠です。

1949年ころ小田急ハルクの野口さんが、ナラの虎斑を全面にあしらった家具の展示会「野口展」を開催したことが在りました。丸太を選別し、斑を表す製材加工まで、深くかかわらせてもらい、原木丸太の状態のとき、家具材としての木味を洞察し、用途に応じた製材をすることは、モノを作る以前の醍醐味でした。